この記事では、1-コンパートメントモデルの式の導出方法を詳しく解説します。
(この記事で解説しているのは、厳密には線形1-コンパートメントモデル&静注投与の場合です。)
経口投与時の1-コンパートメントモデルについてはこちらの記事をどうぞ。
コンパートメントモデルとは?
コンパートメントモデルとは、薬が体内でどのように動いているか、ということを生体内の組織や臓器をいくつかの単純な箱に見立てて考えるシミュレーションモデルです。
1-コンパートメントモデルはこの箱が1つ、つまり、体内の組織、臓器などを1つにまとめて簡単に考えやすくしたモデルのことを言います
箱が1つなので、体内(箱)に薬物を入れると、その箱の中では一瞬で薬物が分布して同じ濃度になります。この考え方は式を立てる上で重要なので頭に入れておきましょう。
コンパートメントの意味
コンパートメント(compartment)とは、区画、部屋、箱を意味する英単語です。
日本語に直すと、区画モデルとか箱モデルみたいな感じになりますよね。
体がいくつかの区画で成り立っていると考えているのが、コンパートメントモデルの意味になります。
ちなみにコンパートメントモデルの理解にはこちらの本がオススメです。
1-コンパートメントモデルの式
1-コンパートメントモデルの薬物濃度推移は次のように示すことができます。
(時間\(t\)における薬物濃度を\(C\)、時間0における薬物濃度を\(C_{0}\)、消失速度定数を\(k\)とする)
$$C = C_{0}e^{-kt}$$
教科書にもよく出てくる式ですが、いったいどのように導かれているのでしょう?
丸暗記するのもいいですが、導出する方法を知っておくと、忘れたときに自分で式を作れるようになります!
まずは変化量を考えよう!
まずは、考えやすくするために薬物量を\(X\)と置きます。(\(X=C×V\)ですね。\(C\)は体内薬物濃度、\(V\)は分布容積)
1-コンパートメントモデルにおいては、
微小時間\(dt\)あたりの薬物量\(X\)の変化量を考えると、
$$\frac{dX}{dt} = -kX$$
と置くことができます。(\(k\)は消失速度定数)
\(k\)って何?
\(X\)って何?
そもそも、\(dX\)とか\(dt\)って何?となると思います。
この式だけでは中々直感的に理解しにくいと思いますので、説明します。
プールで考えてみよう!
次のようなものを考えてみます。
まず前提として、プールで考えてみましょう。
プール=「体」で、プールの中の水=「薬物」みたいなイメージで考えます。
プール(体)には水(薬物)が入っています。この量を\(X\)とします。
プールの底には排水口があって、そこからが水が流れ出ています。(体に入っている薬物が出ていくというイメージです。)
プールに入っている水の量\(X\)が多ければ、多いほどそれに比例して水は速く流れ出ますよね。(体内に薬物がたくさん入っていると、薬物がたくさん出ていきます。)
この「量に比例して水が速く流れ出る。」というのは、「量\(X\)に比例して\(\frac{dX}{dt}\)が小さくなる。」ということですから、
$$\frac{dX}{dt} = -kX$$
このようになる訳です。
小さくなるというのは、変化量の話をしているためです。水は減っていくわけですからね。
水は減っていくので、マイナスになっているんですよ!!
ちなみにプールでこの\(k\)は何を表しているかというと、排水口の大きさです。
排水口が大きければ、大きいほどその大きさに比例して、水は速く流れ出ます。
したがって、このように表すことができる訳です。くどいようですが、もう一回。
$$\frac{dX}{dt} = -kX$$
この考え方はコンパートメントモデルの根底にあるので、知っておくとよいと思います。
導出してみよう!
では、この式がどうやったら、
$$C = C_{0}e^{-kt}$$
になるのか、計算していきましょう。
最初の式はこちらですね。
$$\frac{dX}{dt} = -kX$$
両辺を\(X\)で割ります。
$$\frac{1}{X}\frac{dX}{dt} = -k$$
両辺を時間\(t\)で積分します。
$$\int \frac{1}{X}\frac{dX}{dt}dt = \int -kdt$$
(置換積分を使って)左辺を変形して、
$$\int \frac{1}{X}dX= \int -kdt$$
約分みたいな感じで計算して大丈夫です。
ということで、先ほど変形したこちらの式を計算していきます。
$$\int \frac{1}{X}dX= \int -kdt$$
ではこの式を積分すると、(薬物量\(X\)はマイナスにはならないので、\(\log |X|\)のように絶対値としなくて大丈夫)
$$\log X = -kt + A$$
\(A\)は積分定数です。
\(A\)を求めます。
まあ、求めるというか、便宜上分かりやすい文字にします。
丁寧に説明すると、次のようになります。
時間\(t = 0\)のとき薬物量\(X = X_{0}\)とおくと、(静注すると直ちに体内に薬物が\(X_{0}\)量入ります。)
\begin{eqnarray}
\log X_{0} & = & -k × 0 + A \\
A & = & \log X_{0}
\end{eqnarray}
ですから、
$$\log X = -kt + \log X_{0}$$
となります。
これを変形して、
\begin{eqnarray}
\log X & = & \log e^{-kt} + \log X_{0} \\
\log X & = & \log X_{0}e^{-kt}
\end{eqnarray}
ですから、
$$X = X_{0}e^{-kt}$$
となります。
ここで、\(X=C×V\)だったことを思い出しましょう!(\(C\)は体内薬物濃度、\(V\)は分布容積)
つまり、\(\frac{X}{V} = C\)です。
両辺を\(V\)で割ります。
$$\frac{X}{V} = \frac{X_{0}e^{-kt}}{V}$$
\(V\)は定数ですから、\(\frac{X_{0}}{V} = C_{0}\)も成り立ちます。
分布容積は経時的に変化せず、一定ですよね!
$$C = C_{0}e^{-kt}$$
はい、このようにして、求めることができました。
薬学部には数学に苦手意識を持つ人が多いかもしれませんが、一度流れを知っておくと、役に立つと思います。
より詳しく知りたい人は・・・
ちなみに数学が苦手な薬学部生には次の本がオススメです。
タイトルはいかついですが、かなり平易な文章で書かれていますし、薬物動態を解説した本の中では1、2を争う良書だと思います。(10冊程度読み比べましたが。)
自分も数学が苦手で苦労しましたが、この本でかなり理解を深めることができました。
平易な文章で、イメージから説明する形式であるのにも関わらず、理論的に説明してくれるので、しっかり身に付きます。
国試や定期試験、卒試に向けて、暗記で乗り切ろうという人はいっぱいいると思いますが、数式の暗記は辛いと思いますので、こういった良書に触れて理解して覚えていくと勉強が楽しくなりますよ。
まとめ
この記事では、線形1-コンパートメントモデルの式の導出について紹介しました。
全て頭に叩き込む必要はないと思いますが、なんとなく流れを把握しておいてもよいと思います。
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