1-コンパートメントモデルの式には、大きく2つの種類があります。
1つは以前紹介した基本形となる静注時の式で、もう1つは経口投与時の式です。
この記事では、後者の経口投与時の1-コンパートメントモデルの式の導き方について紹介します。
経口投与時の1-コンパートメントモデルの式は以下のようになります。
(時間\(t\)における薬物濃度を\(C\)、吸収速度定数を\(k_{a}\)、時間\(0\)における消化管内にある吸収されうる薬物量を\(X_{a}^{0}\)、分布容積を\(V\)、消失速度定数を\(k_{e}\)とする)
$$C = \frac{k_{a}X_{a}^{0}}{V(k_{a}-k_{e})}(e^{-k_{e}t}-e^{-k_{a}t})$$
静注時の1-コンパートメントモデルについてはこちらからどうぞ。
コンパートメントモデルとは?
コンパートメントモデルとは、薬が体内でどのように動いているか、ということを生体内の組織や臓器をいくつかの単純な箱に見立てて考えるシミュレーションモデルです。
1-コンパートメントモデルはこの箱が1つ、つまり、体内の組織、臓器などを1つにまとめて簡単に考えやすくしたモデルのことを言います。
静注と経口投与の違い
静注と経口投与の大きな違いは、吸収過程を考慮している点にあります。
静注時には、薬物を投与したときを時間 \(t=0\) として、最初から投与した薬物全てが体内に入るという考え方でしたが、経口投与では違います。
経口投与時の1-コンパートメントモデルでは、投与された薬物はまず消化管という箱に入ります。
そして、次第に消化管から薬物が体内(体循環コンパートメント)に吸収されていくという流れになります。
この吸収される過程を式でどのように式で表すかがポイントになります。
導出方法
考え方は、基本的に静注時の1-コンパートメントモデルと同じです。
ただ、体循環コンパートメントの手前に消化管という箱があるだけです。
まずは薬物量の変化量を表す式である微分方程式を立てていきましょう。
微分方程式の立て方
微分方程式は消化管と体循環コンパートメントのそれぞれで立てることができます。
この2つの方程式を立てて、解いていく流れです。
消化管における微分方程式
経口投与された薬物はまず消化管に入ります。
静注時のコンパートメントモデルと同じように考えると、消化管内では直ちに薬物は分布しますから、消失だけ考えればOKです。(そういうモデルなので)
箱(消化管)の中から薬物が出ていく速度\(\frac{dX_{a}}{dt}\)は薬物が入っている量\(X_{a}\)に比例しますから、
\(k_{a}\)を消化管からの消失速度定数として、
$$\frac{dX_{a}}{dt}= -k_{a}X_{a}$$
と表すことができます。
なお、説明では便宜上\(X_{a}\)を消化管内の薬物量としましたが、実際には消化管内に入っている薬物がすべて吸収される訳ではないので、「\(X_{a}\)は消化管内に入っている薬物のうち、吸収される薬物量」となります。
ちなみに消化管から薬物が消失するということは、体内に吸収されるということですので、体循環コンパートメントには薬物が\(k_{a}X_{a}\)の量入っていくことになります。
したがって、\(k_{a}\)はこのコンパートメントモデルにおいては吸収速度定数と呼ぶことができます。
体循環コンパートメントにおける微分方程式
体循環コンパートメントでは、消化管から薬物が入ってくることに加え、体循環コンパートメントから消失していく薬物を考えます。
入ってくる薬物量は、先ほどの消化管内から消失していく薬物量に等しいですから、\(k_{a}X_{a}\)です。
消失していく薬物量は、体循環コンパートメント内の薬物量\(X\)に比例しますから、
\(k_{e}\)を体循環コンパートメントからの消失速度定数として、
$$\frac{dX}{dt}= k_{a}X_{a} – k_{e}X$$
と表すことができます。
連立微分方程式を解く
消化管内では、
$$\frac{dX_{a}}{dt}= -k_{a}X_{a}$$
体循環コンパートメント内では、
$$\frac{dX}{dt}= k_{a}X_{a} – k_{e}X$$
と表すことができました。
1つの式にまとめる
これをまず1つの式にまとめましょう。
消化管内の薬物量の変化を表す式は、静注時の体循環コンパートメントの式と非常に似ていますので、同じように解くことができます。
\begin{eqnarray}
\frac{dX_{a}}{dt} &=& -k_{a}X_{a}\\
X_{a}&=& X_{a}^{0}e^{-k_{a}t}\\
\end{eqnarray}
これを体循環コンパートメントの式に代入すると、1つの式にまとめることができます。
\begin{eqnarray}
\frac{dX}{dt}&=& k_{a}X_{a} – k_{e}X\\
&=& k_{a}X_{a}^{0}e^{-k_{a}t}- k_{e}X\\
\end{eqnarray}
変形する
微分方程式を解くにあたってこの式を変形していきます。
$$\frac{dX}{dt}= k_{a}X_{a}^{0}e^{-k_{a}t}- k_{e}X$$
\(k_{e}X\)を移行して、
$$\frac{dX}{dt}+ k_{e}X = k_{a}X_{a}^{0}e^{-k_{a}t}$$
両辺に\(e^{k_{e}t}\)を掛けて、(\(Xe^{k_{e}t}\)の微分形を作るためのテクニックです。)
$$\frac{dX}{dt}e^{k_{e}t}+ k_{e}Xe^{k_{e}t} = k_{a}X_{a}^{0}e^{-k_{a}t}e^{k_{e}t}$$
両辺を変形して整理すると、
$$\frac{dX}{dt}e^{k_{e}t}+ Xk_{e}e^{k_{e}t} = k_{a}X_{a}^{0}e^{-(k_{a}-k_{e})t}$$
左辺は合成関数\(Xe^{k_{e}t}\)の微分なので、(ここがミソです)
$$\frac{d(Xe^{k_{e}t})}{dt}= k_{a}X_{a}^{0}e^{-(k_{a}-k_{e})t}$$
この形になれば、積分できます。
積分する
$$\frac{d(Xe^{k_{e}t})}{dt}= k_{a}X_{a}^{0}e^{-(k_{a}-k_{e})t}$$
両辺を\(dt\)で積分すると(\(I\)は積分定数)、
\begin{eqnarray}
\int\frac{d(Xe^{k_{e}t})}{dt}dt&=& k_{a}X_{a}^{0}\int e^{-(k_{a}-k_{e})t}dt+I\\
Xe^{k_{e}t}&=& k_{a}X_{a}^{0}\biggl(\frac{-1}{k_{a}-k_{e}}\biggr)e^{-(k_{a}-k_{e})t}+I\\
\end{eqnarray}
これを変形して、
\begin{eqnarray}
Xe^{k_{e}t}&=& k_{a}X_{a}^{0}\biggl(\frac{-1}{k_{a}-k_{e}}\biggr)e^{-(k_{a}-k_{e})t}+I\\
&=& -\biggl(\frac{k_{a}X_{a}^{0}}{k_{a}-k_{e}}\biggr)e^{-(k_{a}-k_{e})t}+I\\
\end{eqnarray}
積分定数を求める
あと少しです。積分定数を求めます。
積分定数の計算に係数は使わないので、\(A=\frac{k_{a}X_{a}^{0}}{k_{a}-k_{e}}\)と置きます。
\begin{eqnarray}
Xe^{k_{e}t}&=& -Ae^{-(k_{a}-k_{e})t}+I\\
X&=& \frac{-Ae^{-(k_{a}-k_{e})t}}{e^{k_{e}t}}+\frac{I}{e^{k_{e}t}}\\
X&=& -Ae^{-k_{a}t}+Ie^{-k_{e}t}\\
\end{eqnarray}
初期条件で、時間\(t=0\)のとき、\(X=0\)なので、
\begin{eqnarray}
0&=& -Ae^{-k_{a}×0}+Ie^{-k_{e}×0}\\
I&=&A
\end{eqnarray}
よって、
\begin{eqnarray}
X&=& -Ae^{-k_{a}t}+Ae^{-k_{e}t}
&=& A(e^{-k_{e}t}-e^{-k_{a}t})
\end{eqnarray}
\(A=\frac{k_{a}X_{a}^{0}}{k_{a}-k_{e}}\)なので、
$$X= \frac{k_{a}X_{a}^{0}}{k_{a}-k_{e}}(e^{-k_{e}t}-e^{-k_{a}t})$$
血中の薬物濃度を\(C\)とすると、薬物量\(X\)を分布容積\(V\)で割ればよいので、
$$C= \frac{k_{a}X_{a}^{0}}{V(k_{a}-k_{e})}(e^{-k_{e}t}-e^{-k_{a}t})$$
これで求めることができました。
終わりに
全て導ける必要はないとは思いますが、どのように導かれているか一度追ってみておくと理解が深まります。
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